たまのこし |
玉の輿 |
冒頭文
時節外れの寒い風が吹いた。五人もの子供を抱へてゐながらビクともしない働きものゝおたまは、薄明りが差すと、誰れもまだ起きない前に寢床を離れて、手早く衣服(きもの)を着替へて、藁草履を突掛けて、裏木戸から水汲みに出掛けた。風呂桶へ四五荷も汲んで、使ひ水をも大きな水瓶(みづがめ)に滿すと、肥つた身體(からだ)にべつたり汗の出るほどに温かくなつた。 共同井戸の側には、次第に人が集つた。 「
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「女性 第十二巻第六号」プラトン社、1927(昭和2)年12月1日
底本
- 正宗白鳥全集第十二卷
- 福武書店
- 1985(昭和60)年7月30日