ひびょういん |
避病院 |
冒頭文
町村の自治制が敷かれてから間もないころであつた。私の父は選ばれて村長になつた。父の性質としてかういふ煩(うるさ)い役務は好まなかつたのであるが、人物に乏しい僻村(へきそん)では他に適當な候補者が見つからないので、據所(よんどころ)なく選ばれ據所なく承諾したのらしかつた。 名譽職だといふので、しるしだけの俸給に甘んじて、終日出勤して、五つの字(あざな)の合した廣い村の面倒な事務を執つてゐた
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「早稲田文学 第百三十一号」早稲田文学社、1916(大正5)年10月1日
底本
- 正宗白鳥全集第六卷
- 福武書店
- 1984(昭和59)年1月30日