かめん
仮面

冒頭文

一 五月も末になつてゐるのに、火鉢の欲(ほ)しいほどの時候外(はづ)れの寒さで、雨さへ終日降りつゞいた。 午過ぎから夜具を被つて横になつて、心を落着けようと努めてゐた馬越は、默してぢつとしてゐればゐるほど、頭の中の狂暴に堪へられなくなつた。其處等(そこら)にある家具を片端(かたつぱし)から打壞(ぶちこは)すか、誰れかを打つか蹴るかしたなら、いくらか頭が輕くなりはしないかと思はれ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「文章世界 第十一巻第七号」1916(大正5)年7月1日

底本

  • 正宗白鳥全集第六卷
  • 福武書店
  • 1984(昭和59)年1月30日