呉羽之介、露月と不忍池畔に奇遇の事 揺るぎ無い御代(みよ)は枝を吹く風の音(ね)も静かに明け暮れて、徳川の深い流れに根をひたした江戸文明の巨木には、豪華艶美(えんび)を極めた花房(はなぶさ)が、今をさかりに咲き盛かり、散って萎(しお)れる末の世のかなしみの気配をば、まだこればかりも見せぬ元禄時代の、さる年の晩春初夏に、この長物語ははじまります。 それは四月なかばの、とある朝のことでありました