ひじりのいえ
ひじりの家

冒頭文

日向路の五日はいつも良い月夜であつた。最初の晩は土々呂の海浜の松の蔭を、白い細かな砂をきしりつゝ、延岡へと車を走らせた。次の朝早天に出て見たら、薄雪ほどな霜が降つて居た。車の犬が叢を踏むと、それが煙のやうに散るのである。山の紅葉は若い櫨の木ばかりだが、新年も近いのにまだ鮮かに残つて居る。処々の橋の袂、又は藪の片端などに、榎であらうか今散りますとでも云ふやうに、忽然として青い葉をこぼし始め、見て居る

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆86 祈
  • 作品社
  • 1989(平成元)年12月25日