ふるいこよみ わたしとつぼうちせんせい
古い暦 私と坪内先生

冒頭文

坪内先生は、御老齢ではあったけれど、先生の死などということを、考えもしなかったのは我ながら不覚だった。去年朝日講堂で、あの長講朗読にもちっとも老いを見せないで、しかもお帰りのおり、差上げた花束を侍者(じしゃ)に持たせて、人ごみの出口で後から、とてもはっきりとした声で私の名を呼ばれ、笑い顔で帽子をつまみあげられた元気さに、今年五月早大内の演劇博物館で挙行される、御夫妻(おふたり)の喜の字と、古稀(こ

文字遣い

新字新仮名

初出

「報知新聞」1935(昭和10)年3月4日~5日

底本

  • 長谷川時雨作品集
  • 藤原書店
  • 2009(平成21)年11月30日