かるいざわにて
軽井沢にて

冒頭文

長谷川伝次郎氏の『ヒマラヤの旅』には、二万尺以上の霊峰を跋渉した時の壮快な印象が記されている。古来、現世の罪や穢れを洗い清めるために参詣すべき聖地として印度人に憧憬されていたカイラースの湖畔などは、この世のものとは思われないそうである。そこは、一本の樹木もない茫々たる土塊のなかの水溜であるに関わらず、ただ空気が清澄であるために、天国のような光景を呈しているのだそうである。私にも、その光景が微かに空

文字遣い

新字新仮名

初出

「旅人の心」1942(昭和17)年3月

底本

  • 世界教養全集 別巻1 日本随筆・随想集
  • 平凡社
  • 1962(昭和37)年11月20日