るいこうにかえれ
涙香に還れ

冒頭文

江戸川乱歩氏が盛んに売り出そうとしている頃、それは確か関東大震災の翌年あたりであったと思う。報知新聞の応接間で初めて逢って、私は「面白い探偵小説を書こうとするなら黒岩涙香(るいこう)を研究すべきではあるまいか、今の人は涙香を忘れかけて居るが、この人の話術は古今独歩で、筋を面白く運ぶこと、人物を浮出させること、複雑な事件を書きこなして行く技倆に至っては、全く比類もないものである」と話したことがあった

文字遣い

新字新仮名

初出

「巌窟王 上巻」愛翠書房、1948(昭和23)年11月

底本

  • 野村胡堂探偵小説全集
  • 作品社
  • 2007(平成19)年4月15日