こきょうをじす
故郷を辞す

冒頭文

家のものが留守なんで一人で風呂の水汲をして、火を焚きつけいい塩梅にからだに温かさを感じた。そして座敷に坐り込んで熱い茶を一杯飲んだが、庭さきの空を染める赤蜻蛉の群をながめながら常にない静かさを感じた。空気がよいので日あたりでも埃が見えないくらゐである。となりの家の塀ごしに柘榴が色づいてゐる。まだ口を開けてゐない。この間まで花が着いてゐたのにと物珍らしげな眼をあげてゐると、灰ばんだいろをした小鳥が一

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻41 望郷
  • 作品社
  • 1994(平成6)年7月25日