ぜにがたへいじとりものひかえ 133 いどのちゃわん
銭形平次捕物控 133 井戸の茶碗

冒頭文

一 「フーム」 要屋(かなめや)の隱居山右衞門は、芝神明前のとある夜店の古道具屋の前に突つ立つたきり、暫くは唸(うな)つてをりました。 胸が大海の如く立ち騷いで、ボーツと眼が霞(かす)みますが、幾度眼を擦(こす)つて見直しても、正面の汚い臺の上に載せた茶碗が、運の惡い人は一生に一度見る機會(きくわい)さへないと言はれた井戸の名器で、しかも夜目ながら、息づくやうな見事さ。總體薄枇杷色(うすびわい

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1942(昭和17)年5月号

底本

  • 錢形平次捕物全集第二十五卷 火の呪ひ
  • 同光社
  • 1954(昭和29)年5月10日