ぜにがたへいじとりものひかえ 106 ふところかがみ
銭形平次捕物控 106 懐ろ鏡

冒頭文

一 「親分、面白い話があるんだが——」 八五郎のガラツ八が、長んがい顎(あご)を撫でながら入つて來たのは、正月の十二日。屠蘇(とそ)機嫌から醒(さ)めて、商人も御用聞も、仕事に對する熱心を取り戻した頃でした。 「暫らく顏を見せなかつたぢやないか。どこを漁(あさ)つて歩いてたんだ」 錢形の平次は縁側から應へました。湯のやうな南陽(みなみ)にひたりながら、どこかの飼ひ鶯(うぐひす)らしい囀(さえず)

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1940(昭和15)年2月号

底本

  • 錢形平次捕物全集第二十三卷 刑場の花嫁
  • 同光社
  • 1954(昭和29)年4月5日