ぜにがたへいじとりものひかえ 181 ほほのきず
銭形平次捕物控 181 頬の疵

冒頭文

一 「わツ、親分」 まだ明けきらぬ路地を、鐵砲玉のやうに飛んで來たガラツ八の八五郎。錢形平次の家の格子戸へ、身體ごと拳骨(げんこつ)を叩き付けて、お臍(へそ)のあたりが破けでもしたやうな、變な聲を出してわめき散らすのです。 「何といふ聲を出すんだ、朝つぱらから。御近所の衆は番毎膽(きも)を冷やすぜ」 平次は口小言をいひ乍らも、事態重大と見たか、寢卷の前を掻き合せて、春の朝靄(あさもや)の中へ、眠

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋新社、1948(昭和23)年4月号

底本

  • 錢形平次捕物全集第十九卷 神隱し
  • 同光社磯部書房
  • 1953(昭和28)年11月5日