ぜにがたへいじとりものひかえ 054 じゃこうのにおい |
銭形平次捕物控 054 麝香の匂ひ |
冒頭文
一 「旦那よ——たしかに旦那よ」 「——」 盲鬼(めくらおに)になつた年増藝妓のお勢(せい)は、板倉屋伴三郎の袖を掴んで、斯う言ふのでした。 「唯旦那ぢや解らないよ姐さん、お名前を判然(はつきり)申上げな」 幇間(たいこもち)の左孝は、はだけた胸に扇の風を容れ乍ら、助け舟を出します。 「旦那と言つたら旦那だよ、この土地で唯旦那と言や、板倉屋の旦那に決つてるぢやないか
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「オール讀物」文藝春秋社、1936(昭和11)年8月号
底本
- 錢形平次捕物全集第十卷 八五郎の恋
- 同光社磯部書房
- 1953(昭和28)年8月10日