ぜにがたへいじとりものひかえ 028 なげきのぼさつ
銭形平次捕物控 028 歎きの菩薩

冒頭文

一 「親分、あれを聞きなすつたかい」 「あれ? 上野の時の鐘(かね)なら毎日聞いて居るが——」 錢形平次は指を折りました。丁度辰刻(いつゝ)を打つたばかり、お早う——とも言はず飛込んだ、乾分のガラツ八の顏は、それにしては少しあわてゝ居ります。 「そんなものぢやねえ、兩國の小屋——近頃評判の地獄極樂の活人形(いきにんぎやう)の看板になつて居る普賢菩薩樣(ふげんぼさつさま)が、時々

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1934(昭和9)年5月号

底本

  • 錢形平次捕物全集第十卷 八五郎の恋
  • 同光社磯部書房
  • 1953(昭和28)年8月10日