ぜにがたへいじとりものひかえ 065 ゆいのうのゆくえ
銭形平次捕物控 065 結納の行方

冒頭文

一 「親分」 「何だ八、又大變の賣物でもあるのかい、鼻の孔が膨(ふく)らんでゐるやうだが」 錢形の平次は何時でもこんな調子でした。寢そべつたまゝ煙草盆を引寄せて、こればかりは分不相應(ぶんふさうおう)に贅澤な水府煙草を一服、紫(むらさき)の煙がゆら〳〵と這つて行く縁側のあたりに、八五郎の大きな鼻が膨らんでゐると言つた、天下泰平な夏の日の晝下りです。 「大變が種切(たねぎれ)なん

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1937(昭和12)年7月号

底本

  • 錢形平次捕物全集第十卷 八五郎の恋
  • 同光社磯部書房
  • 1953(昭和28)年8月10日