ぜにがたへいじとりものひかえ 077 はちごろうのこい
銭形平次捕物控 077 八五郎の恋

冒頭文

一 「親分、近頃つく〴〵考へたんだが——」 ガラツ八の八五郎は柄(がら)にもない感慨無量(かんがいむりやう)な聲を出すのでした。 「何を考へやがうたんだ、つく〴〵なんて面(つら)ぢやねえぜ」 錢形平次は初夏の日溜りを避けて、好きな植木の若芽をいつくしみ乍ら、いつもの調子で相手になつて居ります。 「大した望みぢやねえが、つく〴〵大名になりてえと思つたよ、親分」 「何?

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1938(昭和13)年6月号

底本

  • 錢形平次捕物全集第十卷 八五郎の恋
  • 同光社磯部書房
  • 1953(昭和28)年8月10日