ぜにがたへいじとりものひかえ 073 くろいきんちゃく
銭形平次捕物控 073 黒い巾着

冒頭文

一 「親分、山崎屋の隱居が死んださうですね」 ガラツ八の八五郎は、いつにない深刻な顏をして入つて來ました。 「それは聽いた。が、どうした、變なことでもあるのかい」 錢形平次は植木鉢から顏を擧げました。相變らず南縁(みなみえん)で、草花の芽をいつくしんでゐると言つた、天下泰平の姿だつたのです。 「變なことがないから不思議ぢやありませんか」 「そんな馬鹿なことがあるもの

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1938(昭和13)年3月号

底本

  • 錢形平次捕物全集第九卷 幻の民五郎
  • 同光社磯部書房
  • 1953(昭和28)年7月20日