ぜにがたへいじとりものひかえ 059 さかやかじ
銭形平次捕物控 059 酒屋火事

冒頭文

一 「親分。お早うございます」 「火事場の歸りかえ。八」 「へエ——」 「竈(へつゝひ)の中から飛出したやうだぜ」 錢形平次——江戸開府以來と言はれた捕物の名人——と、子分の逸足(いつそく)、ガラツ八で通る八五郎が、鎌倉河岸でハタと顏を合せました。まだ卯刻半(むつはん)過ぎ、火事場歸りの人足が漸く疎(まば)らになつて、石垣の上は、白々(しら〴〵)と朝霜が殘つて居る頃です。

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1937(昭和12)年1月号

底本

  • 錢形平次捕物全集第八卷 地獄から來た男
  • 同光社磯部書房
  • 1953(昭和28)年7月10日