ぜにがたへいじとりものひかえ 035 くぐつめいしん
銭形平次捕物控 035 傀儡名臣

冒頭文

一 「親分、手紙が參(めえ)りました」 「どれ〳〵、これは良い手だ。が、餘程急いだと見える」 錢形平次は封を切つて讀み下しました。初冬の夕陽が這ひ寄る縁側、今までガラツ八の八五郎を相手に、將棋(しやうぎ)の詰手を考へて居る——と言つた、泰平無事な日だつたのです。 「使の者が待つて居りますが——」 ガラツ八は膝つ小僧を隱し乍ら、感に堪へて居る平次を促(うなが)しました。

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋社、1934(昭和9)年12月号

底本

  • 錢形平次捕物全集第八卷 地獄から來た男
  • 同光社磯部書房
  • 1953(昭和28)年7月10日