くろねことみ
黒猫十三

冒頭文

1 本庄恒夫(つねお)と辰馬久(たつまひさし)は篠突く雨の中を夢中で逃げた。体を二つにへし折り、風に追われながら、夜の市街をひた走りに走った。その時、一緒に馳けていた辰馬久が、ふいと身を転(かわ)して横町へ折れた。続いて曲ろうとした途端、本庄は行手の暗がりから、ぬッと出て来た大男が、辰馬の後を飛ぶ如く追跡するのを見た。 「危い! 捕りやしないか?」 ぎょッとして思わず心で叫び

文字遣い

新字新仮名

初出

「キング 一二巻一号」1936(昭和11)年1月号

底本

  • 大倉燁子探偵小説選
  • 論創社
  • 2011(平成23)年4月30日