ましょうのおんな |
| 魔性の女 |
冒頭文
一 会社を退出した時には桃子にも連れがあったので、本庄とは別々の電車に乗ったが、S駅を降りると、彼はもう先に着いて待っていた。 二人は腕を組んで夕闇の迫った街を二三町も歩くと、焼け残った屋敷街の大きな一つの門の前に立ち止った。 桃子は眼を丸るくして、門冠りの松の枝を見上げ、 「あんた、このおやしき?」「うん。素晴らしいだろう? 会社への往きかえりに毎日前を通っていてね、いい家だなあと想
文字遣い
新字新仮名
初出
「マスコット 一巻七号」1949(昭和24)年9月号
底本
- 大倉燁子探偵小説選
- 論創社
- 2011(平成23)年4月30日