ようえい
妖影

冒頭文

一、暗号(コード) 応接室に入った時、入れ違いに出て行った一人の紳士があった。 「あれは私の従兄(いとこ)なんですよ」 S夫人は手に持っていたノートを私に渡しながら、 「お暇があったら読んでみて頂戴な。あの従兄が書いたんですの」 「文学でもなさる方ですの?」 「否(いい)え、商売人なんです。最初の目的は別の方面にあったのですが、若い時はちょっとした心の弛みから、飛んでも

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール読物」文芸春秋、1934(昭和11)年9月号

底本

  • 大倉燁子探偵小説選
  • 論創社
  • 2011(平成23)年4月30日