あのかお |
| あの顔 |
冒頭文
1 刑事弁護士の尾形博士は法廷から戻ると、久しぶりにゆっくりとした気分になって晩酌の膳にむかった。庭の新緑はいつか青葉になって、月は中空にかかっていた。 うっすらと化粧をした夫人が静かに入って来て、葡萄酒の瓶をとりあげ、 「ずいぶん、お疲れになったでしょう?」と上眼使いに夫を見上げながら、ワイン・グラスになみなみと酒を注いだ。「うむ。だが、——長い間の責任をすましたので、肩の荷を下したよう
文字遣い
新字新仮名
初出
「ロック 三巻六号」1948(昭和23)年10月
底本
- 大倉燁子探偵小説選
- 論創社
- 2011(平成23)年4月30日