きりぎりすのき
螽蟖の記

冒頭文

きりぎりすは夜明けの四時になると鳴き止む。部屋のなかに籠を置いて雨戸を閉めてあっても、四時になるとぱったり静かになる。なぜかというと、四時には明け方の微かな明りが漂いはじめるからだ。それがきりぎりすには判るらしい。夕方から鳴きはじめるが、夜更けの一時から二時の間にしききりなしに鳴く。息をつかずに僕のかぞえた数では、百十一遍続けさまに鳴いていた。つまり、きりきりきりという口調をくりかえすのである。し

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆19 秋
  • 作品社
  • 1984(昭和59)年5月25日