あかいろうそくとにんぎょ |
赤い蝋燭と人魚 |
冒頭文
一 人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。北の海にも棲んでいたのであります。 北方の海の色は、青うございました。ある時、岩の上に、女の人魚があがって、あたりの景色を眺めながら休んでいました。 雲間から洩(も)れた月の光がさびしく、波の上を照していました。どちらを見ても限りない、物凄い波がうねうねと動いているのであります。 なんという淋しい景色
文字遣い
新字新仮名
初出
「東京朝日新聞」1921(大正10)年2月16日~20日
底本
- 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
- ちくま文庫、筑摩書房
- 2008(平成20)年8月10日