ユモレスク
ユモレスク

冒頭文

一 出かける時間になったが、やすが来ない。離室(はなれ)になっている奥の居間へ行ってみると、竹の葉影のゆらぐ半月窓のそばに、二月堂(にがつどう)が出ているだけで、あるじはいなかった。 壁際に坐って待っているうちに、六十一になるやすが、息子の伊作(いさく)に逢いに一人でトコトコ巴里までやってきた十年前のことを思い出した。 滋子(しげこ)は夫の克彦(かつひこ)と白耳義(ベ

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール讀物」文藝春秋、1948(昭和23)年3月号

底本

  • 久生十蘭短篇選
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2009(平成21)年 5月15日