ちいさいげいじゅつ
小さい芸術

冒頭文

むかしの世では、あづまから京へ、京から筑紫のはてへと、手紙を書いたり書かれたりすることが、非常に珍しひことであり、又一生のうちの幾つかに数へられるよろこびでもあつたらうと思ふ。その時代の人々の静かな余裕ある心では、その手紙のためにたくさんの時間と真心と技巧をも与へることが出来た。かれらは手紙によつて多くを与へ多くをうけることが出来たのである。あの鎌倉の月影が谷(ヤツ)の小さな家で手紙を書いてゐた阿

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文化生活 第二巻第六号」1922(大正11年)6月号

底本

  • 燈火節
  • 月曜社
  • 2004(平成16)年11月30日