さんびゃくねんご
三百年後

冒頭文

老境にはいると、若い時分のような楽みが、だんだんと無くなって来る。殊に近頃の御時勢では、喰べ物も大分まずくなったように思われるし、白米にも御別れを告げたし、いまにお酒もろくに飲めない時が来るかも知れない。只今では、私の楽みといえば、古本いじりときまってしまった。 この頃の寒さでも、天気のいい日に、日当りのよい廊下で、三百年も以前の和本や唐本や洋書などを、手当り次第に取上げて、いい加減のところか

文字遣い

新字新仮名

初出

「図書」岩波書店、1940(昭和15)年1月号

底本

  • エッセイの贈りもの 1
  • 岩波書店
  • 1999(平成11)年3月5日