とねがわのきしべより
利根川の岸辺より

冒頭文

こころにひまなく詠嘆は流れいづ、 その流れいづる日のせきがたく、 やよひも櫻の芽をふくみ、 土(つち)によめなはさけびたり。 まひる利根川のほとりを歩めば、 二人歩めばしばなくつぐみ、 つぐみの鳴くに感じたるわが友のしんじつは尚深けれども、 いまもわが身の身うちよりもえいづる、 永日の嘆きはいやさらにときがたし、 まことに故郷の春はさびしく、 ここらへて山際の雪消ゆるを見ず。

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 萩原朔太郎全集 第三卷
  • 筑摩書房
  • 1977(昭和52)年5月30日