皐月あやめさくころ。思ふどち二人三人かいつらねて、堀切の里にいきけり。「むさしや」といふ家のはなれを借りて根合せならねど、あやめの歌合といふを試みけり。あやめは、池のこのもかのもに咲き誇れり。池には舟板橋を渡せり。人人袖ふりあひてゆきちがふ。一しきり風立ちて、えならぬ薫はおばしま近く通ひつ。北の屋蔭の苔むしたる井筒に、新調の洋服涼しげなる若人二人、巴里形の麥藁帽子見よげにかぶりて、細き櫻のステツキ