とうこういん
東光院

冒頭文

一 東光院(とうくわうゐん)の堂塔は、汽動車(きどうしや)の窓から、山の半腹(はんぷく)に見えてゐた。青い木立(こだち)の中に黒く光る甍(いらか)と、白く輝く壁とが、西日(にしび)を受けて、今にも燃え出すかと思はれるほど、鮮(あざ)やかな色をしてゐた。 長い〳〵石段が、堂の眞下へ瀑布(たき)を懸(か)けたやうに白く、こんもりとした繁(しげ)みの間から透(す)いて見えた。

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「文章世界」1914(大正3)年1月

底本

  • 明治文學全集 72 水野葉舟 中村星湖 三島霜川 上司小劍集
  • 筑摩書房
  • 1969(昭和44)年5月25日