ほっかいのなみにさらわれたが
北海の波にさらわれた蛾

冒頭文

鈍(にぶ)い砂漠(さばく)のあちらに、深林(しんりん)がありましたが、しめっぽい風(かぜ)の吹(ふ)く五月(がつ)ごろのこと、その中(なか)から、おびただしい白(しろ)い蛾(が)が発生(はっせい)しました。 一時(じ)、ときならぬ花(はな)びらの、風(かぜ)に吹(ふ)かれたごとく、木々(きぎ)の枝葉(えだは)に蛾(が)がとまっていたのです。それは、また、ちょうど、降(ふ)りかかった、冷(つめ)

文字遣い

新字新仮名

初出

「童話」1926(大正15)年5月号

底本

  • 定本小川未明童話全集 5
  • 講談社
  • 1977(昭和52)年3月10日