ひとりすもう
ひとりすまう

冒頭文

奇妙なことは、最初その女を見た時、ぼくは、ああこの女は身投げするに違いないと思い込んで了ったことなのだ、——と彼は語り出した。彼が二十一歳の時の話という。 ——その女を見たのは、南紀白浜温泉の夜更けの海岸だった。その頃京都高等学校の生徒であったぼくは肺患の療養のためその温泉地に滞在していた。恐らく病気のためだったろうが、その頃は毎夜の様に不眠に苦しめられていて、その晩も、夜更けてから宿を抜け

文字遣い

新字新仮名

初出

「海風 第三号」1938(昭和13)年2月

底本

  • 織田作之助全集 1
  • 講談社
  • 1970(昭和45)年2月24日