しゅっせい
出征

冒頭文

今宵電車は進行を止め、バスは傾いたまゝ動かうともせぬ 沿道の両側は雪崩れうつ群衆、提灯と小旗は濤のように蜒り 歓呼の声が怒濤のように跳ね返るなかをおれたちは次々にアーチを潜り、舗道を踏んで いま駅前の広場に急ぐ おゝ、不思議ではないか かくも万歳の声がおれたちを包み おれたちの旅が かくも民衆の怒雷の歓呼に送られるとは! 春の街は人いきれにむれ返り 銃を持つ手に熱気さへ伝はる

文字遣い

新字旧仮名

初出

「赤い銃火」1932(昭和7年)年4月

底本

  • 槇村浩詩集
  • 平和資料館・草の家、飛鳥出版室
  • 2003(平成15)年3月15日