ふしぎなさかな
不思議な魚

冒頭文

漁師の子息(むすこ)の李一は、ある秋の日の暮れに町のある都へ書物を買いに出掛けました。李一は作文と数学の本を包んで本屋を出たのは、日の暮れでもまだ明るい内だったのです。 その時、反対の町から魚やの盤台のような板の上に、四角なガラス瓶(びん)を置いて、しきりに何か唄いながら行く男を見たのです。その男のあとを町の子供らがぞろぞろ尾(つ)いて歩いていました。 「一(いっ)たい、ガラスの箱

文字遣い

新字新仮名

初出

「キング」1926(大正15)年11月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年9月10日