ふしぎなくにのはなし
不思議な国の話

冒頭文

そのころ私は不思議なこころもちで、毎朝ぼんやりその山を眺めていたのです。それは私の市街(まち)から五里ばかり隔った医王山(いおうぜん)という山です。春は、いつの間にか紫ぐんだ優しい色でつつまれ、斑(まだ)ら牛のように、残雪をところどころに染め、そしていつまでも静かに聳(そび)えているのです。その山の前に、戸室(とむろ)というのが一つ聳えていましたが、それよりも一層(いっそう)紫いろをして、一層静か

文字遣い

新字新仮名

初出

「金の鳥」1922(大正11)年4月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年9月10日