冒頭文

一 お川師(かわし)堀武三郎の留守宅では、ちょうど四十九日の法事の読経も終って、湯葉(ゆば)や精進刺身のさかなで、もう坊さんが帰ってから小一時間も経ってからのことであった。表の潜(くぐ)り戸が軋(きし)むので、女房が立って出て見ると、そこへ、いま法事をあげたばかりの武三郎が、くぐり戸から四十九日前に出たきりの川装束で、ひょっこり這入(はい)って来た。 心持のせいか髪も濡れ、顔も

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年9月10日