あじゃり
あじゃり

冒頭文

下野(しもつけ)富田の村の菊世という女は、快庵禅師(かいあんぜんじ)にその時の容子(ようす)を話して聞かした。 「わたくしが峯のお寺へ詣(まい)るのは、ひと年に二度ばかりでございます。春早く雪が消えるころと、秋の終りころとでございます。これはわたくしの家の掟でございまして、その折には四季に食べるお斎糧(とき)を小者にかつがせ、腐らぬ漬物などを用意してまいります。峯の阿闍利(あじゃり)さまはそ

文字遣い

新字新仮名

初出

「週刊朝日 夏季特別号」1926(大正15)年

底本

  • 文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年9月10日