ろうにんぎょう
蝋人形

冒頭文

私は一人の蝋燭造(ろうそくつくり)を覚えている。その町は海に近い、北国(ほっこく)の寂しい町である。町は古い家ばかりで、いずれも押し潰されたように軒の低い出入の乱れた家数(やかず)の七八十戸もある灰色の町である。名を兵蔵といって脊の高い眉の濃い、いつも鬱(ふさ)いだ顔付(かおつき)をして物を言わぬ男である。彼の妻は小柄の、饒舌(しゃべ)る女で、眼尻が吊上っていた。子供に向ってもがみがみ叱る性質(た

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説」1908(明治41)年5月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日