よるのよろこび
夜の喜び

冒頭文

私は、夜を讃美し、夜を怖れる。 青い、菜の葉に塩をふりかけて、凋(しお)れて行く時の色合のような、黙って、息を止めているような、匂いはないけれど、もしこれを求めたら、腥(なまぐさ)い匂い、それも生々しい血汐(ちしお)の流れている時分の臭いでなく、微かに、ずっと前に、古くからそこに残っている匂いがするような、青い月夜もある。 風もなく、雨も降らず、大空には星の光りも隠れて、しかも厚い鉄板を頭

文字遣い

新字新仮名

初出

「早稲田文學」1911(明治44)年9月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日