もりのくらきよる
森の暗き夜

冒頭文

一 女はひとり室(へや)の中に坐って、仕事をしていた。赤い爛(ただ)れた眼のようなランプが、切れそうな細い針金に吊下(ぶらさが)っている。家の周囲には森林がある。夜は、次第にこの一つ家を襲って来た。 森には、黒い鳥が棲んでいる。よく枯れた木の枝などに止まっているのを見た。また白い毛の小さな獣物(けもの)が、藪に走って行くのを見た。枯木というのは、幾年か前に雷が落ちて、枯れた木である。頭が二つ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1910(明治43)年8月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日