ふしぎなとり
不思議な鳥

冒頭文

一 車屋夫婦のものは淋しい、火の消えたような町に住んでいる。町は半ば朽ちて灰色であった。 町には古い火の見櫓(やぐら)が立っていた。櫓の尖(さき)には鉄葉(ブリキ)製の旗があった。その旗は常に東南の方向に靡(なび)いていた。北西の風が絶えず吹くからである。また湯屋があった、黒い烟(けむり)が、町の薄緑色の夕空に上っている……車屋の家は、軒の傾いた小さな店で蝋燭屋(ろうそくや)の隣りにあったが

文字遣い

新字新仮名

初出

「趣味」1910(明治43)年2月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日