ばらとみこ
薔薇と巫女

冒頭文

一 家の前に柿の木があって、光沢(つや)のない白い花が咲いた。裏に一本の柘榴(ざくろ)の木があって、不安な紅い花を点(とも)した。その頃から母が病気であった。 村には熱病で頭髪(かみのけ)の脱けた女の人が歩いている。僧侶の黒い衣を被(き)たような沈鬱な木立がある。墓石を造っている石屋があれば、今年八十歳の高齢だからというので、他に頼まれて盲目縞(めくらじま)の財布を朝から晩まで縫っている頭巾

文字遣い

新字新仮名

初出

「早稲田文學」1911(明治44)年3月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日