とらわれびと
捕われ人

冒頭文

山奥である。右にも左にも山が聳(そび)えている。谷底に三人の異様な風をした男が一人の男を連(つれ)て来て、両手を縛って、荒莚(あらむしろ)の上に坐らせて殺そうとしている。三人の悪者(わるもの)の眼球(めだま)は光っていた。莚の上に坐らせられた男は汚れた破れた着物を着て顔には髭が延びて頭髪(かみのけ)の長い痩せた男だ。悪者は強盗であって、捕われた男は何(な)んでも猟師か何かであるらしい。山奥で吹く渓

文字遣い

新字新仮名

初出

「文章世界」1908(明治41)年11月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日