とびら

冒頭文

一 陰気な建物には小さな窓があった。大きな灰色をした怪物に、いくつかの眼があいているようだ。怪物は大分年を取っていた。老耄(ろうもう)していた。日が当ると茫漠(ぼうばく)とした影が平(たいら)な地面(じべた)に落ちるけれど曇っているので鼠色の幕を垂れたような空に、濃く浮き出ていた。 室(へや)の中にはいくつかの室が仕切ってあった。いずれも長方形の室で壁が灰色に塗ってあった。この家は外形から見

文字遣い

新字新仮名

初出

「早稲田文學」1910(明治43)年4月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日