てん

冒頭文

その頃この町の端(はずれ)に一つの教会堂があった。堂の周囲(まわり)には紅い蔦(つた)が絡み付いていた。夕日が淋しき町を照す時に、等しくこの教会堂の紅い蔦の葉に鮮かに射して匂うたのである。堂は、西洋風の尖った高い屋根であって、白壁には大分罅(ひび)が入っていた。 日曜になっても余り信徒も沢山出入しなかった。 その教会に計算翁(けいさんおう)と渾名(あだな)された翁(おきな)が棲んでいた。

文字遣い

新字新仮名

初出

「新天地」1909(明治42)年1月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日