ちごがふち
稚子ヶ淵

冒頭文

もう春もいつしか過ぎて夏の初めとなって、木々の青葉がそよそよと吹く風に揺れて、何とのう恍惚(うっとり)とする日である。人里を離れて独りで柴を刈っていると、二郎は体中汗ばんで来た。少し休もうと思って、林から脱け出て四辺(あたり)を見廻すとすぐ目の下に大きな池がある。二郎は何の気なしにその池の畔(ほとり)へ出た。 すると青々とした水の面(おもて)がぎらぎらする日の光りに照(うつっ)て一本(ひともと

文字遣い

新字新仮名

初出

「早稲田學報」1906(明治39)年3月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日