すぎたはるのきおく |
| 過ぎた春の記憶 |
冒頭文
一 正一(しょういち)は、かくれんぼうが好きであった。古くなって家を取り払われた、大きな屋敷跡で村の子供等(ら)と多勢(おおぜい)でよくかくれんぼうをして遊んだ。 晩方(ばんがた)になると、虻(あぶ)が、木の繁みに飛んでいるのが見えた。大きな石がいくつも、足許(あしもと)に転がっている。其処(そこ)で、五六人のものが輪を造って、りゃんけんぽと口々に言って、石と鋏(はさみ)と紙とで、拳(けん)
文字遣い
新字新仮名
初出
「朱欒」1912(明治45)年1月号
底本
- 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
- ちくま文庫、筑摩書房
- 2008(平成20)年8月10日