しろいもんのあるいえ
白い門のある家

冒頭文

静かな、春の晩のことでありました。 一人の男が、仕事をしていて、疲れたものですから、どこか、喫茶店へでもいって、コーヒーを飲んできたいという心が起こりました。 男は、家(うち)の外へ出ました。往来は、あたたかな、おぼろ月夜で、なにもかもが夢を見ているようなようすで、あちらの高い塔も丘も空も森も、みんなかすんで、黒くぼんやりと浮き出して、じっとしていたのです。 彼は、町へ出てから、はじめ

文字遣い

新字新仮名

初出

「赤い鳥」1925(大正14)年5月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日