こごえるおんな
凍える女

冒頭文

一 おあいが村に入って来たという噂が立った。おあいを見たというものがある。また見ないというものがある。見たという人の話によると、鳥の巣のような頭髪(かみのけ)を束(つか)ねて、顔色は青白くて血の気のない唇は、寒さのためにうす紫色をしていた。背には乳飲児(ちのみご)を負(おぶ)って、なるたけ此方(こっち)の顔を見ないように急いで、通り違ってしまった。きっと、森の中の家に来ているのだろうといった。

文字遣い

新字新仮名

初出

「三田文學」1912(明治45)年1月号

底本

  • 文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2008(平成20)年8月10日